
旧香川県立体育館の解体方針に関する声明について
香川県が旧香川県立体育館の解体工事を2026年3月中に着手する見通しとなる中、同体育館の設計を手がけた建築家・丹下健三氏の長男であり、TANGE建築都市設計代表の丹下憲孝氏が、解体に対する懸念を示す声明を公表しました。
声明では、旧香川県立体育館の解体問題は単なる一施設の存廃にとどまらず、日本の戦後建築全体の価値や継承のあり方に関わる重要な課題であると指摘しています。また、戦後に建設された優れた建築が十分な議論のないまま失われている現状に強い危機感を表明し、旧体育館も地域の風景や文化を支えてきた重要な文化資産であると評価しています。
丹下氏は、安全性や財政面の制約が判断材料となることは理解しつつも、2012年に行われた耐震診断は本来、長期利用を前提とした補修・改修のためのものであり、倒壊の危険を前提としたものではなかったと説明しています。そのうえで、文化的価値の評価や再生の可能性について十分な社会的議論が行われていない現状を憂慮し、慎重かつ責任ある判断を求めています。
旧香川県立体育館は、日本の近現代建築を代表する作品の一つとして国内外から注目を集めており、近年は海外メディアや研究機関からも保存の重要性が指摘されています。こうした状況の中で、民間から再生提案がなされているにもかかわらず議論が進まない現状についても、声明では深い懸念が示されています。
旧香川県立体育館再生委員会としては、今回の声明が本施設の文化的価値や再生の可能性について、改めて広く社会的議論を深める契機となることを期待しています。文化的資産は一度失われれば取り戻すことができません。私たちは今後も、旧香川県立体育館の保存と活用の可能性について、県民の皆様とともに考え続けてまいります。
【TANGE建築都市設計 代表取締役/CEO 丹下憲孝氏の声明全文】
旧香川県立体育館について
現在、旧香川県立体育館の解体が進められようとしている状況について、私は一つの建築の問題にとどまらず、 日本の近現代建築のあり方全体に関わる重要な課題として強い危機感を抱いています。
近年、日本各地において戦後に建てられた優れた建築が、十分な議論がなされないまま次々と姿を消しています。 これらの建築は、単なる老朽施設ではなく、戦後の社会がどのような価値観のもとに都市や文化を築いてきたのかを示す、極めて重要な文化資産です。
旧香川県立体育館もその一つであり、地域の風景として長く親しまれると同時に、日本の建築技術と表現の到達点を示す存在として評価されてきました。 建築は、時代の思想や技術、人々の記憶を内包するものであり、それが失われることは、単に物理的な建物を失うことではなく、社会の歴史的文脈の一部を失うことを意味します。
この問題は国内にとどまらず、国際的にも関心が高まっています。米国の有力紙「ニューヨーク・タイムズ」 において、 日本の戦後建築が急速に失われている現状が指摘され、旧香川県立体育館もその象徴的な事例として紹介されました。 またニューヨーク近代美術館やハーバード大学などの文化・研究機関からも、こうした動きに対する懸念が示されています。
もちろん、安全性や財政的な制約が重要な判断要素であることは理解しています。しかし同時に、近現代建築の文化的価値をどのように評価し、どのように継承していくのかという社会的な議論は、いまだ十分に成熟しているとは言い難い状況にあります。 この継承という意味は、ただ単に形を残すという事ではなく、今の時代に求められる新しい用途を有した上で、継承していくという意味です。 今問われているのは、個別の建築の存廃ではなく、私たちがどのような文化を未来に残そうとしているのかという姿勢そのものです。 もしこのまま重要な建築が失われ続けるならば、その選択は将来の世代から、 現代社会の文化に対する意識、認識として評価されることになるでしょう。
旧香川県立体育館をめぐる問題が、日本の近現代建築の価値を見つめ直し、保存や再生の可能性について社会的な議論を深める契機となることを強く願います。 民間からこの建築の用途の変更も含めた再生の検討・提案がなされるなか、その可能性の議論が進まない状況についても深く憂慮しています。 文化は、一度失われれば二度と取り戻すことはできません。だからこそ今、私たちには慎重で責任ある判断が求められていると考えます。世界中から注目を集めるこの県立体育館を取り壊せば、香川県の観光資源を損なうことになり、観光ツーリズムにも大きな影響が及ぶことでしょう。
この様な損失は香川県の県民の皆さんにとって、決して良い事ではないはずです。旧香川県立体育館の保存、再生を願う思いは、今も変わっていません。
English - instagram @tangeassociates
My thoughts on the Former Kagawa Prefectural Gymnasium
March 19, 2026
Paul Kenko Tange
Regarding the ongoing situation in which the former Kagawa Prefectural Gymnasium is being considered for demolition, I feel a profound sense of urgency. This is not merely an issue concerning a single building, but a critical matter affecting the broader state of modern and contemporary architecture in Japan. In recent years, many significant postwar buildings across Japan have been lost without sufficient public discussion. These structures are not simply aging facilities; they are invaluable cultural assets that embody the values through which postwar society shaped its cities and culture.
The former Kagawa Prefectural Gymnasium is one such example. It has long been cherished as part of the local landscape and recognized as a pinnacle of Japanese architectural technology and expression. Architecture contains the ideas, technologies, and memories of its time. Its loss would mean not only the disappearance of a physical structure, but also the erosion of part of our historical and cultural context. The decision to demolish the building has sparked controversy both in Japan and abroad. The New York Times has highlighted the rapid loss of postwar architecture in Japan, citing this gymnasium as a symbolic case. Institutions such as the Museum of Modern Art in New York and Harvard University have also expressed concern.
While safety and financial constraints are important factors, discussion on how to evaluate and preserve modern architectural heritage remains insufficient. Preservation does not simply mean maintaining a structure in its original form, but adapting it with new functions suited to contemporary needs. What is at stake is not only the fate of a single building, but the cultural legacy we pass on. Once culture is lost, it cannot be recovered. Careful and responsible decision-making is essential now more than ever. Losing this world-renowned gymnasium would diminish Kagawa’s tourism and negatively impact its economy—against the interest of its people. My hope for the preservation and regeneration of the former Kagawa Prefectural Gymnasium remains unchanged.
参考:旧香川県立体育館解体へ 丹下憲孝氏が声明公表「慎重で責任ある判断が求められる」 | KSB瀬戸内海放送