追加資料② 旧香川県立体育館の構造性能評価について
Additional Material 2: Structural Performance Evaluation of the Former Kagawa Prefectural Gymnasium
Structural Performance Evaluation of the Former Kagawa Prefectural Gymnasium.pdf(PDF : 308KB)
旧香川県立体育館の構造性能評価レポートを公開しました。専門家による詳細なレポートは、この建物が大地震時にも建物の倒壊などはせず、耐震改修も可能であることを示しています。



旧香川県立体育館の構造性能評価について
旧香川県立体育館(以後、体育館と略記する。)は、プレストレストコンクリート構造を採用しています。この構造形式では、高強度の鉄筋とコンクリートにあらかじめ張力を加えることで、構造体全体を一体化させる効果があります。その結果、大地震の際にもコンクリートの剥落や倒壊を抑止することが可能です。
一般的な鉄筋コンクリート構造では、大地震によってひび割れや破壊が生じることがありますが、体育館では約1.5倍の高強度材料を使用しているため、より大きな力に対して高い耐性を発揮します。
次に、吊り屋根について、通常の屋根は平板形状しています。一方、体育館の屋根形状は、むくりを付けて屋根の硬さを向上するように工夫したHP曲面(2つの方向に曲率がある)を採用しています。そのため、地震や台風等の揺れに対する安全性も考慮された設計となっております。
更に、屋根材の落下に対する懸念について、屋根材は小さな板(1.1m×1.1m)を敷き並べて大屋根を形成しています。この屋根材は4ケ所の留め具でケーブルに接合される形式であり、一枚の屋根材に人が二人(60kg×2名)乗って工事ができるように設計されています。即ち、錆や腐食による経年変化により、留め具が破壊するような場合、一枚の屋根材が落下する恐れはありますが、屋根全体が崩壊するような懸念はありません。
体育館では、競技場下に配置された柱・梁・壁などの骨組みを対象に、耐震要素を評価したうえで耐震診断が実施されています。過去の診断では、簡略化された構造モデルを用いて解析が行われていましたが、現在では、より精密な構造解析プログラムの活用により、実際の構造に近い詳細なモデルでの検討が可能となっています。これにより、構造躯体の挙動をより正確に把握でき、効果的かつ合理的な耐震補強の提案が可能となります。
最後に、地盤の液状化について、1962年に設計された当時の建築基準法では液状化の検討がなされておりません。その理由として、我が国における地震被害として液状化が問題となったのは、1964年の新潟地震を契機として、その後に液状化の検討がされてきた歴史的な背景があります。現在、南海トラフ地震を想定した場合、液状化する懸念があります。
しかしながら、液状化の発生条件として、土の中にある地下水位が関係しているため、降雨の少ない季節に大地震が発生した場合は液状化の発生する確率は少ないと考えられます。仮に液状化が発生した場合でも、地盤の沈下によって杭が地上に露出する可能性はありますが、体育館の構造は杭基礎によって支持されているため、建物自体の沈下や倒壊の心配はありません。液状化によって杭を拘束する土圧が減少し、地震時の揺れが大きくなる可能性はあるものの、杭が破断するような事態は想定されていません。その理由として、体育館は超高層ビルのように高さ方向にスレンダーな構造ではなく、平面的に広く、高さが低いプロポーションを持つため、杭に作用する力が局所的ではなく、比較的均等に分散されると考えられます。
田中 正史 博士(工学)
東海大学 建築都市学部 建築学科 准教授【略歴】
2001年東海大学建築学科卒業,2001-2006年「空間工学研究所(現在KAPに改組)」にて構造設計の業務に従事,2006-2008年東海大学大学院修士課程,2008-2011年東海大学大学院博士課程では体育館などの大空間構造物の修復・補強方法に関する研究に従事,2021年から博士論文で得られた知見を応用するため,空間構造物の修復や保存に関する研究を行い,「旧香川県立体育館」の技術的な資料調査や支援活動に関わり現在に至る。【所属学協会】
日本建築学会,国際シェル空間構造学会【関連論文】 11件
1) Masafumi TANAKA : Reevaluation of the structural features and architectural techniques of the "Former Kagawa Prefectural Gymnasium" designed jointly by Kenzo Tange and Takeshi Okamoto, Proceedings of the IASS Annual Symposium 2025, Mexico City, 2025.10.27-31(2025年7月1日採択済)
2)清水隆宏,田中正史:旧香川県立体育館の構造図における設計変更と構造的特徴について その 1 主要な 構造要素における分析,日本建築学会大会講演梗概集,pp.*-*, 2025.09(現在,投稿中)
3) 「コンピューターなき時代―1960年代の建築と構造」:空間構造デザイン研究会・特別企画(主催:Aフォーラム),モデレーター:斉藤公男,パネリスト:磯達雄(建築ジャーナリスト),小澤雄樹(芝浦工業大学),田中正史(東海大学)オンライン形式,2025.08.02
4)トークイベント:近代建築保存再生への道のり 旧香川県立体育館への返信(共催:一般社団法人船の体育館再生の会,愛知工業大学清水隆宏研究室,東海大学田中正史研究室),登壇者:笠原一人(京都工芸繊維大学),清水隆宏(愛知工業大学),田中正史(東海大学),木村拓実(オクタント建築都市研究所),2024.08.21
5) Masafumi TANAKA, Noriyuki KAWANISHI, Mituo INAGAKI, Ryoich SHIBATA: A Study on the Structural System and History of the Former Kagawa Prefectural Gymnasium , Proc. of IASS/APCS, S5 Sustainable Heritage: Challenges and Strategies in the Preservation and Conservation of 20th Century Historic Concrete Shells-1, pp.70 , China, pp.1-9, 2022.09
6) 河西範幸,田中正史,稲垣光彦:旧香川県立体育館の変遷と構造に関する研究 その1:サウンディング型市場調査に至る経緯,日本建築学会大会講演梗概集,pp.907-908, 2022.09
7)田中正史,河西範幸,柴田良一:旧香川県立体育館の変遷と構造に関する研究 その2:吊り屋根構造と液状化判定,日本建築学会大会講演梗概集,pp.909-910, 2022.09
8)近現代建築の保存再生と香川県立体育館:登壇者:斉藤公男(日本大学名誉教授)・河西範幸(船の体育館再生の会),名和研二(NAWAKENJI-M),秋山裕英(JIA日本建築家協会香川地域会会長),田中正史(武蔵野大学建築デザイン学科),オンライン形式,2022.08.20
9)シンポジウム:四国の近現代建築の保存再生(共催:一般社団法人船の体育館再生の会,建築家協会,武蔵野大学田中正史研究室),登壇者:河西範幸・武智和臣・福田頼人・北山めぐみ(船の体育館再生の会)、名和研二(NAWAKENJI-M)、田中正史(武蔵野大学建築デザイン学科),オンライン形式,2022.05.14
10)「船の体育館(旧香川県立体育館)のいままでとこれから」―再現計画から再生計画―:空間構造デザイン研究会・特別企画(主催:Aフォーラム),モデレーター:斉藤公男,パネリスト:名和研二(なわけんジム),河西範幸(一般社団法人船の体育館再生の会),田中正史(武蔵野大学)オンライン形式,2021.09.08
11)集中荷重を受けるコンクリート造円筒殻の修復耐力,2011年(平成23年)3月,東海大学,博士論文
【社会貢献活動】 4件
1) 「沈みゆく船からの手紙 旧香川県立体育館 発見された設計図展」,共催:一般社団法人船の体育館再生の会,愛知工業大学清水隆宏研究室,東海大学田中正史研究室),高松オルネ,2024.08.21~09.17
2) アーキニアリング・デザイン展2022『建築とエンジニアリングの融合』を再考する2022:主催:日本建築学会,建築博物館ギャラリー,2022.11.02~11.09
3)「せとうちの瀬戸際けんちく 船の体育館展」,共催:一般社団法人船の体育館再生の会,建築家協会,武蔵野大学田中正史研究室),高松市美術館,2022.08.16~08.21
4)「絶体絶命、船の体育館展」―もう一つの丹下建築―:(共催:一般社団法人船の体育館再生の会,建築家協会,武蔵野大学田中正史研究室),北浜アリー,2022.05.10~05.22
コンピューターなき時代―1960年代の建築と構造
コーディネーター:斎藤公男パネリスト:磯達雄(建築ジャーナリスト)、小澤雄樹(芝浦工業大学)、田中正史(東海大学)