旧香川県立体育館の解体工事再開に、設計者・株式会社TANGE建築都市設計が声明を発表。
客観的な構造検証と再検討を求める
旧香川県立体育館再生委員会は、株式会社TANGE建築都市設計が2026年10月14日付で発表した「旧香川県立体育館の解体工事再開に関する声明」を紹介します。
本声明では、丹下健三氏の遺志を継ぐ建築家として、旧香川県立体育館の拙速な解体に反対する意思が表明されています。平成24年の耐震診断が解体の根拠として用いられていることへの懸念に加え、近年の建築技術や検証手法の進歩を踏まえ、今回の調査で得られたデータに基づく、より精緻で客観的な構造分析を行う必要性が訴えられています。
一度失われた建築と、そこに刻まれた人々の記憶は、二度と取り戻すことができません。解体工事の再開が迫るなか、不可逆的な判断を下す前に立ち止まり、客観的な検証結果に基づいて再生の可能性を改めて検討することが求められています。
ぜひ、声明全文をご一読ください。
参考:20261014旧香川県立体育館における声明文.pdf(PDF形式:289KB)

参考:旧香川県立体育館の解体工事再開に関する声明 令和8年10月14日 株式会社TANGE建築都市設計 代表取締役/CEO 丹下憲孝 - Instagram
旧香川県立体育館の解体工事再開に関する声明
令和8年10月14日
株式会社TANGE建築都市設計
代表取締役/CEO 丹下憲孝
解体工事の一時停止期間が、本日10月14日をもって満了を迎えようとしています。
これまで私は、この歴史的建築物が解体へと向かう道筋に深い葛藤と強い疑問を抱き続けてまいりました。そうした折、思いがけず自室の片隅から、父・丹下健三の葬儀の折に、事務所の先輩であり弟子のひとりでもある磯崎新先生が寄せてくださった弔辞を見つけ、静かに読み返す機会を得ました。磯崎先生の手による流麗な言葉を追い進めるうちに、私はある一節にハタと目を留め、吸い寄せられるように何度も何度も繰り返し反芻いたしました。
君たちはいったい、これから何をやろうとしているのかね。
私は半世紀以上も前にこの国家の肖像を描いてやったのだよ。
何ひとつとして満足できる時代じゃなかった。
そんなきびしいなかでも<建築>するという志さえあれば、
その肖像は生み出すことができた。
ところがこの満ち足りた時代になってみたら、日本という国家は
さまよっている。
<建築>が消えている。
わが弟子たちよ、いったいどういうわけなのだ。
丹下健三先生はこういって、嘆かれていると私は思うのです。
この痛烈な問いかけを噛みしめるうちに、私は父と子としてだけでなく、数ある弟子の一人として、師である父の遺した思想をどれほど深く理解できているのだろうかと、亡き父に厳しく叱責され、同時に強く背中を押されたような心地がいたしました。いま一度、一人の建築家として、そして父と師の志を継ぐ者として、旧香川県立体育館の拙速な解体に強く反対いたします。
香川県は、私たちが行った平成24年の耐震診断を解体の根拠として繰り返し挙げておられます。しかし、改修によって建物をより安全に、永く守り継ぐために行われたはずの診断が、あろうことか解体の口実として利用されている現状には、大きな憤りと強い遺憾の意を禁じ得ません。
約15年の歳月を経て、建築技術も検証手法も著しく進歩しております。この度の調査で得られた貴重なデータを紐解き、現代の最新技術による精緻な構造分析を経ることこそが、すべての関係者が真に納得し得る道を開くはずです。より客観的で納得のいく検証結果を待つべきであることは、言を俟ちません。
その検証結果を待たずして解体が再開されてしまえば、仮にどれほど重要な新たな知見が得られたとしても、それを未来への智慧として活かす道は永遠に閉ざされてしまいます。どれほど後悔しようとも、ひとたび失われた建築と、そこに刻まれた人々の記憶が再び戻ってくることはありません。取り返しのつかない事態に陥る前に、私たちは今こそ立ち止まるべきなのです。
香川県におかれましては、期間満了をもって直ちに解体へと踏み切るのではなく、調査結果に基づく真摯な検証の機会を確保していただきたい。そして、本件に真摯に向き合ってこられた関係者の皆様、旧香川県立体育館を愛し続けてくださっている世界中の皆様、父の思想を共に継ぐ弟子の皆様、そして何より香川県民の皆様が、将来にわたって決して後悔することのない、見識あるご判断を下さることを強く要望いたします。
客観的な検証結果とその成果に基づくしかるべき検討がなされるまでは、解体工事の再開を固く見合わせていただけますよう、心よりお願い申し上げます。